鈴木隆夫(仮)の、と或る朝。

momocolor2005-11-24

朝の満員電車。


私、鈴木隆夫(46)は
毎朝、この時間この電車に乗って会社に向かう。


今日は、朝会の後
客先へ出向いてプレゼンをしなければならない。
そのあと、自社へ戻って
重要なメールの返信を一通り終えたあと
明日の会議の資料を準備する。
そして今日の私は、いつもより仕事を早めに切り上げて、
最近、仕事とプライベートの問題で悩んでいる笹山君を
ガス抜きの名目で飲みに連れて行ってやるだろう。


そんな風に今日一日のスケジュールを頭の中で綿密に立てる。
満員電車に揺られるようになってもう7年。
毎朝の習慣である。




戸塚駅で乗り込んできた
一人の女の子が隣に立った。


・・・何をしているんだろう。
鞄を煩わしそうに右肩から左肩へ持ち替えようとしている。


・・・いかにも重たそうな鞄だ。
しかも、もう片方の手には
コンビニで買ったであろう小さな買い物袋
(紙パックの小さなジュースでも入ってるのかな?)
をもっているがために、
その大きな鞄がよりいっそう邪魔そうである。


正面上方の網棚を見ると
小さなスペースが。
彼女の荷物を置くには、ほんのちょっと足りないスペース。
でも、私の鞄をよければ何とか荷物を置けそうである。


「ほら、その重たそうな鞄を網棚に載せなさい。」


私は、そういうつもりで自分の鞄を網棚から下ろした。


彼女がこちらを見ているのが雰囲気でわかる。


無言の時間が流れる。
しかし、なかなか彼女は荷物を置こうとしない。


何をしているんだろう。
早く荷物を置いてしまえばよいのに。


遠慮しているのだろうか?
私の行動が恩着せがましかった?


そんな考えが巡る。


少したってから、
彼女は迷ったように小さな会釈をし、
少し背伸びをして網棚に荷物を置いた。



・・・・ビニール袋のほうを。




をい、そっちかよ。


私は喉まででかかった
相当に「ベタ」な突込みを飲み込む。


満員電車。
ちょこんと置かれた小さなビニール袋。
私の手には、空親切。


あえてそれ以上彼女を見ないように
勤めて平静を装うことになるのだった・・・。


おわり。
************


えぇぇ。
鈴木隆夫さん(仮)が
実際にこう思っていたかどうかは定かではないのですが
「彼女」ことワタクシはですね、
別に荷物が大きくて困っていたのではなく、
ただ単にウォークマンを必死に探していただけで。。。


でもあんなふうにスペースを譲ってもらうと
何にも置かないわけには行かないじゃん?


でも、鞄を置いてしまうとウォークマンが聞けない。。。


小さな親切に、出来るだけ小さく答えただけなんです。。。。。


鈴木隆夫(仮)さん。
貴方の心意気(だけ)は忘れません。


やさしさをありがとう。
鈴木隆夫(仮)さん。